学期の終業を目前に控えたある日。

悪夢にうなされて目覚め。
いつものように朝食を摂る
朝見た夢がどんなものだったかは思い出せないものの
言い様の無い不快感と違和感がもやのように付きまとい
それが原因の倦怠感で食欲も湧かなかった。

仕方なく気だるさの抜けないまま家を出た。
せめて学校にたどり着くまでの間に目の覚めるような音楽でも聴いていこうなんてこともしてみるが、大概そう言うことは対して効果のない悪足掻きに終わるものだ。
しかし幸か不幸か自分は朝から声高にまくしたたてて来るような愉快な友人は持ち合わせていなかったのでそれ以上の余計なストレスを感じることはなかった。

そうして何とか無事に登校したものの、教室で時間割を確認した俺は3限目に記された『体育』の文字を見て小さくうめき声をあげた。
普段なら適当に流しながらゲームを楽しむ余裕もあるが今日の体調不良の身にはかなりきつい。

そんな午前中の山場を何とか切り抜けて
ようやく昼休み、教室を出てグラウンド脇の運動部室棟で弁当を食べ終えた俺は

「あぁ、ったく...だりぃな。休めばよかった」

抜けるような青空を見上げながら、ぶつける宛てのない不満を独り口にする。

『毎日が退屈だ。昨日も、今日も、たぶん...明日も。』

そんなことを思いながらグラウンドを眺めていると午後の予鈴が響いてくる。

《しかし自分のそんな思いとは裏腹に、朝から付きまとう違和感。それは徐々にはっきりと、しかも確実に歩み寄ってきていた。》

そうして俺は足取り重く教室に戻り、自席でおとなしく授業を受けてはいるものの5限の教科は『現国』
やはりキツい。睡眠不足にこの授業の相性は最悪だ。

気がつくと俺は夢を見ていた。明晰夢と言うほどではないが見慣れた悪夢だ。
調子の悪いときにはいつもこの夢を見る。
誰もいない廃墟のような街の暗い景色。人気もないのに稼働音の響く不気味に古めかしい工場。その周りを一人で彷徨うだけの夢。
そうしていると景色に不似合いなチャイムの音がまた聞こえてくる。

「おい柊、お前大丈夫かよ?」

気がつくと俺はクラス委員に身体を揺すられていたらしい。授業中に盛大に居眠りをした俺を苦笑いで見つめるクラスメートの視線を感じた。
バツが悪くなって顔を上げるとこのクラスの担任でもある教科担任が苦笑いを浮かべながら口を開き、俺の顔色を見ると心配そうな表情を浮かべて言葉を続ける。

「珍しく随分とお疲れねぇ柊クン?って...!?居眠りの説教はあとでするとして、あなた大丈夫?顔真っ青よ?」

「すいません、今朝がたから調子悪いの我慢してました。」

目立つ恥をかいた以上、正直に言ってしまうほうが得策だ。
すると先生は少し悩んだ表情で黒板の時間割を見ると言葉を続ける。

「6限はHRだし一時間保健室で寝て帰るってのもアレね。悪化して帰れなくなっても良くないし、、、、、、、、、、よし! 帰れるうちに帰りなさい。お説教は復帰してからみっちりしてあげるわ。」

そして彼女は明朗な調子ではっきり俺にそう告げるとにこやかに笑いながら最後の言葉を付け足した。
普段から親しみやすい人だとは思っていたが今日のこの言葉は神の慈悲にも等しいと感じる。

「ありがとうございます、すみません。」

素直に礼と詫びの言葉を述べて俺は早々に教室を出た。

そして普段より数時間は早い帰宅道、歩いている学生は自分ぐらいのものという静かな住宅街の通学路で俺はショートカットの効く裏道のルートを歩いていた。
ただでさえ少ない人通りがさらに減り自分以外には誰もいないんじゃないかなどと思ったとき、ふいに向かいから自分と同じように学生服姿の女子がこっちのほうに向かって歩いてくるのが目についた。

なんのことはない普通に可愛い女の子だったから気を取られるくらいは良くあることだろう。ただ彼女とすれ違った時、閑静な住宅街という雰囲気には全く不似合いの、だが何故かとても見覚えのある

『不自然』

を確かに目にした。
そしてすれ違いざまに

「ようやく見つけた、実際に見てみると案外普通なものね。」

俺の見た明らかな異常をあっさりと普通と言い切る快活な声が
はっきりと聞こえた。そして
まるで自分に向けられられたかのようなその言葉に対して反射的にふりむくと、目の前の『不自然』をはさんで同じようにふりむいた彼女と初めて完全に目が合った。
体調不良も相まって目の前の状況に対して理解と把握が追い付かず呆けたような顔をしている俺と興味深げに口の端に微笑を浮かべた彼女。
今にして思えばかなり残念な印象を彼女に晒してしまったものだ。

その日、俺は折角早退したものの結果として早く帰ることはできなかった。

けれどそのかわりに

後になって知った、其処にあったそれは

「俺達だけが知っている...」

それは、いつか

「私達だけが知らされた...」

『この世の終わりと、世界の創まり......』